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尚文が裏声で口にした謳い文句と、操作方法のチュートリアルをざくざくとスキップしながら、グラスに残った氷をストローでつつく。
「どろぼうさんのお願い事、出たろ?」
「ひどいセンスだ」
このアプリでは、幸せどろぼうとやらに五分間をくれてやることを、どろぼうさんのお願い事を聞く、と表現しているらしい。
反射的に口から吐き出されたとおり、ひどいセンスだ。
だというのに、つまらないから終わり、と断じきれない文言が、画面には表示されていた。
「なんでそんな微妙な顔してんの。読むか見せるかしろって」
「今いるカフェのトイレであと五分ひっそりしていてね。これ大丈夫? 位置情報、勝手に取られてない?」
尚文にスマホごと見せ、眉をひそめつつ、立ち上がる。
「お。めっちゃ怪しんでるわりにちゃんと行くんだ?」
「普通にトイレ行きたいだけだって」
「あっそ。まあせっかくだし、終わったら完了押しとけよ」
結果的に言うとおりにせざるを得ないタイミングと内容になっているのが、不気味でもあり癪でもある。
かといって、それじゃあトイレなんか行くものか、さっさと出るぞと言い切るには、腹の悲鳴は大きくなりすぎていた。
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