夏の終わりのプレイボール

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 何がどう伝わったのか、翌朝早々全てが露呈し、伊坂くんは皆の前で監督に殴られた。 「マネージャー怪我させたら、お前どう責任取るんだ」  いつも通りの微塵も震えない声が、怒りを伝えていた。  吹っ飛ばされた伊坂くんは、淡々と立ち上がり、申し訳ありませんでした、と頭を下げた。  次の練習試合、伊坂くんはベンチ入りを禁じられることになった。  私は発言する機会すら与えられなかった。  監督は私一人をベンチ裏に呼び出した。 「……俺が本当に殴りたいのは伊坂よりお前だ」  あいつの首に手綱付けるのが、お前の仕事だろ。  ……じゃれ合いのキャッチボールとかで? 「じゃあ殴って下さい」  考えるより先に、声が出ていた。  ぎろり、と監督は私を見下ろした。  今まで見た中で一番冷たい目だった。 「殴るわけねえだろ。立場わきまえろよ」  それでも、監督は私をクビにできない。  練習も試合も、私がいないと回らない。  自分が報われるわけじゃない。  お姫様気取り。  今時ジェンダー的に問題あり。  本当に好きなら自分がやればいい。     ……全部本当で、全部嘘だ。  私の気持ちは、私にしか分からない。  グラウンドが私の居場所。  ここだけが、私と甲子園を繋いでいる。  そんな場所本当に行って嬉しいの?  あの時返せなかった答えが、今なら分かる。  確かめるために行きたい。
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