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5.
「獣人を指導役に付けられたって!? なんてことだ! まったく酷い話だ!」
展望レストランのホールを満たしていた上品な静寂は、蘭堂が驚きのあまりに上げた声によって破られた。
給仕や離れたテーブルに座る他の客がいっせいにこちらを向き、桐ヶ谷は身をすくませた。
『真なる人の会』の理念に賛同したオーナーの意向により、会員制の看板を掲げているこのレストランには獣人はひとりもおらず、従業員も客もすべて人間族だ。
蘭堂はそんな桐ヶ谷や周囲の人々の様子など気にせず、言葉を続ける。
「ひどく屈辱的な話だし、だいいち虹くん、君は異種族恐怖症だろう? わたしが抗議するよ! 確か配属されたのは東岸署の刑事課だったね」
「は、はい」
「思い出した。刑事課長は柳小夜子警部か。父親のコネだかで去年くらいに警部になったばかりの──」
桐ヶ谷は渋面を作って言う蘭堂を見て、小さく頷いた。
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