3.殺人事件と投稿動画

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 しかし、今朝は7時を過ぎても家には戻って来なかった。  心配した家族によって捜索願が出され、日課のランニングコースを中心に捜索が行われたものの、彼が見つかることはなかった。  ちょうど同じ頃、梶浦の家から徒歩にして1時間あまり離れた港湾倉庫で、付近の住民から変死体を発見したとの通報が入った。  服装や身体的特徴、持ち物などから、遺体は早朝から行方が知れなくなっていた梶浦であることが判明した。 「にしても、どうしてこんな所で」  遺体を検分しながら、鑑識官が呟きを漏らす。  梶浦の勤め先は市内中心部にある大手商社のオフィスである。同じ東区とはいえ歩いて20分ほど離れたこの場所に立ち寄る理由は無い。  服装もスーツではなく、上下揃いのトレーニングウェアとランニングシューズのままだ。  遺族の話では梶浦はお洒落にうるさく、とりわけTPOを弁えた格好を常に心がけていたという。  そんな人物が、トレーニングウェアのまま普段の職場に出掛けることなどあり得ない。  加えて現在の場所は、梶浦が走るコースからは大きく外れている上、途中には幾つかの幹線道路が横切っている。  ランニングのコースにはまったく適さず、一見したところ、あまりにも不自然だった。
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