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7.
瀬畑は、辺りに甘い匂いが漂っていることに気がついた。
飲食店やコンビニなどは、いずれも少し離れた場所にある。
誰かが菓子を包装していたビニール袋でも投げ捨てたのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
匂いは確かに甘いが、あまり食欲をそそる類の香りではない。
バニラや桜の葉、枯草、その他、様々な花の香りを滅多矢鱈に混ぜ合わせた整合性のない香りに、瀬畑は心当たりがあった。
嗅ぐ者の感覚を撹乱することだけを目的とした、品性も物語も見出せない取り合わせ。
いや、香りに込められた物語なら、ひとつ見出せる──『恐怖』。
「ふむ」
遺体となった梶浦の側に屈み込み、尖った口吻を近付け、ひくひくと動かす。
思った通り、匂いは梶浦の身体から漂っている。
「どうした?」
「ホトケさん、ジョギングに出掛けるにしては洒落た香水を付けていたようですね」
屈み込んでいた顔を上げて、鑑識官に言葉を返す。
見た目よりも機能性を重視したトレーニングウェアとランニングシューズには、まったく不似合いな香りである。
「あとで科捜研で調香師が調べるだろうが、この気分の悪くなる甘さと偏執的な組み合わせ、心当たりがあるだろ?」
「『獣避け』ですか」
「らしいな」
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