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「どんな些細なことでも良いからね。これから、きみはわたし達と一緒に働くことになるんだから」
何かを言おうとしてか、そわそわと視線を泳がせる青年を安心させるように、柳は微笑みかける。
キャリア組の官僚候補である桐ヶ谷虹は、研修の一環として東岸署の刑事課に配属された。今日はその初日となる。
桐ヶ谷の指導役は獣人種のひとつ、犬狼族の瀬畑義狼巡査部長が務めることになっている。
今は姿が見えないのは、おそらくはトイレにでも行っているのだろう。
2.
「その、指導役の瀬畑巡査部長についてなんですが」
「ふむ。彼が何か?」
声をひそめ早口で言う桐ヶ谷の言葉を聞き漏らすまいと、柳は机の上に肘を突いて上体を乗り出す。
普段の瀬畑は寡黙で、まだらの毛皮と強面な容姿もあって、彼を知らぬ人からは第一印象で恐れられることも多い。
けれども、新人をいじめるような気性のねじ曲がった部分は無いことをよく知っている。
どちらも父親が警察官で仲が良く、幼い頃から家族同士での交流があった。
とりわけ、三姉妹の末っ子として生まれた柳は、4つ年下の瀬畑に対してまるで姉のように振舞っていた。
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