1.若きエリートの憂鬱

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「どうして獣人が、ぼくの指導役なんですか?」  桐ケ谷は不安げな表情の下、微かに怒りの色を滲ませた。  そして小さな声で、けれども一語ずつ噛み締めるように言う。 「ぼくは異種族恐怖症(ゼノフォビア)です。それは既に申告しています。そして、それについて配慮していただくことにも!」  徐々に語調を荒げる桐ヶ谷に、しかし柳は微動だにせずまっすぐに見つめたまま 「勿論、知っているよ。桐ヶ谷くん、瀬畑はきみに何かしたかな? 彼の行動に問題があれば教えてほしい。わたしの見立てでは、ここで一番面倒見が良いのは彼だったから、きみの指導役に任命したんだが」  うぅ、と桐ヶ谷は小さく呻いて言葉を詰まらせる。  柳は身を乗り出したままの姿勢を少し引きながらも、視線を外さず次の言葉を待った。 「獣人は、知力面で人間に劣ると、聞いています」 「おや、それは半世紀くらい前の学説だね。最近、SNSでまた流れてるみたいだけど。現在ではわたしたち人間種とも違いは無いことが分かっているよ。瀬畑が警察官になるために受けた学科試験だって、わたしたちと違いはないもの」
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