1.若きエリートの憂鬱

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3. 「桐ヶ谷くん、以前に獣人と接したことは?」 「ありません。ずっと特別区で暮らしてきましたから」  自分とは違う種族に恐怖や嫌悪の感情を抱く異種族恐怖症(ゼノフォビア)は、現在では人間種にしばしば発生する精神疾患とみなされている。  異種族と接点のある暮らしは、彼らにとって大きなストレス要因となる。  抑うつ状態などの二次障害を防ぐため、同種族すなわち人間種のみが暮らす特別区がいくつかの場所に設けられていて、そうした場所で暮らすのが通例だ。  桐ヶ谷もまた、幼い頃から特別区で育ってきた人間のひとりだった。  日本国内に限らず、世界各地の種族ごとの人口比率はまちまちだ。  桐ヶ谷の生まれ育った場所は人口のほとんどを人間種が占める場所だった。  しかし、河都市とその周辺は、総人口の半数以上を獣人種が占めている。接点を持たずに暮らすことは不可能に近い。
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