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瀬畑と名乗る獣人は、言葉を続けた。
『一昨日、市内で発生した凶悪事件に関してお話をお伺いしたく、訪ねさせていただきました。今後は生活安全課の職員も巡回に来る予定です。何かお困りの際には声を掛けてください。それでは、失礼します』
スーツ姿の犬は、モニターに一礼すると、そのまま去っていった。
スラックスの後ろから突き出た尻尾が、ゆらゆらと揺れながら遠ざかってゆく。
目前に迫る災難が過ぎ去り、蘭堂は大きく溜息をついて机に突っ伏した。が、瀬畑について桐ヶ谷から聞いた話を思い出し、がばりと勢い良く上体を起こした。
曰く、嘘も感情の動きも的確に見破る──否、嗅ぎ分ける、驚異的な嗅覚の持ち主。
──逃げ切らないと。何としても!
逃げるといっても、行く当てなど、どこにもない。
そもそも、上手く行けば『真なる人の会』に取り立てて貰える筈なのだ。ならば、堂々としていなくては。
まずは落ち着こう。予備の香水を取り出すべく、机の引き出しに手を突っ込む。ない。
ああ、なんということだ! あの若造、桐ヶ谷に渡したビンが手持ちの最後の一本だったのだ。
「ああ、畜生!」
だが、直後に妙案が浮かぶ。
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