10.乱闘騒ぎ

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10.乱闘騒ぎ

24.  午後7時半すぎ、瀬畑の車が東岸署の駐車場に着いたとき、雨はすっかり本降りになっていた。  ざあざあと音を立てて降り注ぐ雨の中、傘を忘れたことを悔やみながら小走りで庁舎へと走ってゆく。  刑事課のオフィスに戻ると、柳と桐ヶ谷のどちらも席を外しているようだった。昼過ぎ、会議のために呼ばれた柳は、市内を流れる龍神川(たつかみがわ)の対岸にある西区に行ったきり、まだ戻ってきていない。  オフィスには桐ヶ谷がつけていた香水の残り香が、まだしつこく存在を主張していた。 「まったく、空気清浄機借りて来てコレなんだから、本っ当にイヤになっちまうよなぁ」  猪族(ししぞく)の刑事、井倉(いくら)が、半ばうんざりした表情でシャツに付いた香水の匂いを嗅いでみせた。  瀬畑は、井倉に桐ヶ谷がどこにいるのか訊いたが、しかし 「んー、そういや、どこ行ったんだ? 便所にしちゃ長いよなぁ。タバコは吸わねぇって言ってた筈だし、サボりか?」  適当に相槌を返そうとした瀬畑の脳裏に、一昨日の朝、目にした光景が過ぎった。獣人から暴行を受けた人間は、まだ寒さの残る早朝の空気の中、ただひとりで命を落とした。 「おれ、ちょっと捜してきます」  封を開けかけたチョコバーを机の上に置き、瀬畑は椅子から立ち上がる。
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