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「さっきの威勢はどうしたんだ? あ?」
柴犬顔の犬狼族が、嗜虐的な笑みを浮かべて倒れた瀬畑を見下ろす。投げ飛ばされたのを根に持っているらしい。すでに勝ったつもりでいるのか、足元が隙だらけだ。
瀬畑は上体を起こして右手と左足で身体を浮かせると、右足を使って足払いをかけた。その勢いで身体を引き寄せてしゃがんだ姿勢になり、後ろに跳び下がって距離を取る。
「てめぇ!」
倒れた男を無視し、桐ヶ谷に目を向ける。
だが、頭でも打って気を失っているのか、動く様子がない。
「悪くないな。久々に気合いの入った練習って感じだ」
わざと声を上げて、他の連中の気を引きつける。
複数の怒りの匂いと、桐ヶ谷が付けた香水の強い香りが入り混じって、嗅ぎ分けは少し難しそうだ。
身体中の血が沸き立つような高揚感を感じる。それを抑えながら一行を見回す。
「おっと、倒れてるヤツを狙うなよ? 後で面白いことになるからな」
ポケットから携帯端末を取り出して見せる。録音/録画アプリは立ち上げていないが、それでもハッタリとしての効果はあったらしい。
怒気をはらんだ一行の視線が自分に集中するのを、瀬畑は感じた。
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