御前仕合

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 その夜は将軍義政の肝いりで酒宴があった。  そこには各地の守護のお歴々も居並んでいた。  その席に教貫も呼ばれた。  それは教貫にとって望外の喜びであった。  義政は既に酔っていた。  そして突然立ち上がった。  「そこに居るのが前村大炊ノ介教貫と申す。  この仕合を取り纏めた者だ。  皆も楽しんだであろう。  この者に感謝することだな。」  義政は声を出して笑い、末席で教貫は恐縮していた。  「元々この仕合は・・・」  そこで晴海が義政の袖を引いた。  義政の性格もあり、酒宴は徐々に乱れていった。  その中で特に動きが大きかったのは尾張の守護、斯波義廉(よしかど)。  彼はまず伊東玄白の席に至り、徳利を傾けた。  遥かに目上の者からの挨拶に玄白は恐縮した。  「・・で、どうじゃこれまでの仕合。」  「さすがに腕に覚えのある者達、この玄白感激しております。」  「当家の安藤宗重はどうじゃ。」  「強うございます・・ですが相手が・・・」  「そうじゃろう。  相手が悪かった。  当初の相手、並木某には運が悪かった。  そなたの目にはどう映った。」  「安藤殿の剣はきれます・・ですが先程も申したように相手が・・・」  「その方は並木某より下と見て居るか。」  「滅相もございません。  安藤殿の腕は確か・・今申し上げた者達とはほぼ互角の腕でございましょう。」  「よいことを聞いた。」  そう言って義廉は席を立った。  義廉は次に教貫の席を訪れた。  「此度は将軍の覚えも目出度いようだな。」  ここに居るはずもない下役の者に義廉(よしかど)は横柄な声を掛け、教貫はそれに平伏した。  「で、一つ儂の願いを聞いてくれぬか。」  教貫はごりごりと床に額をこすりつけた。  「将軍様に於かれては・・鬼・・・」  そこで義廉は大きく笑い、そして声をひそめた。  「お主には毎年十の金子を与えよう。  鬼を伐つなどと奇抜な計画ではなく、京の治安を守る見廻り役を設置することを進言して欲しいものだ。」  斯波義廉(よしかど)は気軽に次々と酒宴の人々を訪れた。  ある席では大いに笑い、ある席ではひそと話した。  その挙げ句に伊東玄白の席に戻った。  「京の治安部隊が出来る・・その総帥に当家の安藤宗重を推挙して貰いたい。」  玄白は不穏当な顔をした。  「当家には今だ指南役が居らん。  腕の立つ者が欲しいものだ・・・知行はいとわぬ。」  玄白はごくりと唾を飲んだ。  「弟子も居ったのう・・その者達も京の治安部隊に加える。」  それだけを言うと義廉はその場を離れた。  宴もたけなわ、突然義政が立ち上がった。  「明日の仕合が楽しみだ。  皆もそう思うだろう。」  義政は大声を張り上げた。  そこに晴海がにじり寄った。  「明日の仕合ですが・・」  そして義政に声を掛けた。  何か・・と言う風に義政はそれを見た。  「予選以下はご無用かと・・・」  義政は怪訝そうに僧侶を見た。  「これ以上は、可惜(あたら)力のあるものを傷つけ、不虞に致すこともありましょう。  それでは当初の・・ 」   晴海はその後の言葉を濁した。  突然義政は言葉を変えた。  「明日を最後とする。  勇者は一人にあらず・・予選を勝ち抜いた者を召し抱える。」  召し抱える・・その言葉にそこにいた列公は違和感を覚えた。
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