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激務が続いていた。
御庭廻奉行としての鬼を伐つ者達を支える組織作り、京見廻組隊員の選別、義政が突然言い出した近衛組の取り扱い。その外にも表向きの顔である兵部の仕事・・等々やることは多岐に渡っていた。
教貫は城内の奉行所を下がり、自分の肩をトントンと叩いた。
「兵部ノ丞さま・・・」
その手に女の柔らかい手が触れた。
振り向いた教貫の眼にあの女が・・・
「お久しぶりでございます。」
女は妖艶に頭を下げた。
「お久しぶりも何も・・・」
言いかける教貫の唇に女は人差し指を当てた。
「お忙しそうでしたので、声を掛けるのを遠慮しておりました。」
女はそっと教貫の手を牽いた。
いつもの社のはず、だがそれは以前より豪壮に見えた。
社の内には豪華な褥(しとね)が敷いてあった。
そこに横たわり女は教貫を誘った。
朝まずめ、衣服を直す女は數貫を振り返った。
「私の名をご所望でしたね。」
數貫が肯く。
「私の名は“今若”・・・
これで宜しいですか。」
數貫はその声にも頷き、
「今度いつ会える。」
と、素裸の身体を起こした。
「さて・・・・」
今若はいつものように社の外に出て行った。
またいつか・・・數貫はその朝は女の後を追わなかった。
伊東玄白は数人の高弟を連れて尾張に去った。
残された十数人の弟子達は數貫に任され、彼の前に勢揃いしていた。
「その方等を京見廻組に召し抱える。」
數貫はそう宣言した。
これで京見廻組は安藤宗重を含め二十六人となった。
「安藤は別として、後三人か・・・
それで四隊になる。」
やっとここまで来た・・數貫はグルグルと凝った首を回した。
その側に子供が走り寄り、文を渡した。
それには・・いつもの社で・・と書いてあった。
數貫は社に足を急がせ、観音開きの扉を開けた。そこには褥の上に腕枕で横たわる男が居た。
おのれ・・數貫は一瞬剣に手を掛けた。
その後ろから女が手を回し、その手を抑えた。
「いやですわ・・私の弟、城ノ介ですよ。
勘違いなさってはいけませんわ。」
女・・今若の手はそのまま數貫の股間に滑り降りていった。
「こちらをお向きなさいな。」
今若は數貫の耳朶(みみたぶ)に熱い息を掛けた。
それに誘われ數貫は今若に向き直り、その華奢な身体を抱きしめた。
「城ノ介・・そこをお退(の)きなさい。」
女のように華美な着物を割り赤い、褌までを見せていた城ノ介は褥の上から降りた。
その空いた所に今若は教貫を押し倒した。
「弟は出て行かないのか。」
「人に見られながら致すのも、おつなものですよ。」
数々の性技を弄した挙げ句、妖艶に笑いながら、今若は体勢を入れ替えた。
教貫は今若を貫いた。
その背後には城ノ介が迫っていた。
城ノ介は教貫に背後から覆い被さった。
男と女を同時に味わい、教貫は女のような呻き声を上げた。
「私の希望(のぞみ)は城ノ介を一角(ひとかど)の武士にすること・・兵部ノ丞さま、お願いいたしまする。
三日後に城ノ介を行かせます・・その際・・・」
朝未(あさまだ)きの光りの中、教貫は頷いた。
今若が言ったように三日後に城ノ介は教貫のもとに現れた。
その男は幾分不機嫌そうな顔をしていた。
その時、教貫は新たに京見廻役に加える者達の検分を行っていた。
来たか・・教貫はそうとだけ言った。
派手な着物を着た城ノ介は、フラッと検分を受けている五人の中に入った。
小癪な・・五人は色めき立った。
一人が木剣で突っかけた。
それを城ノ介は軽く躱し、投げ飛ばした。
一瞬で勝負は結した。
投げ飛ばされた男の喉元には脇差しが宛がわれていた。
それに残る四人が怒り、群がるように勝負を挑んだ。
相手は一人ではない。それでも城ノ介はそれらの攻撃を軽々と躱し、近くの者から大きく投げ飛ばした。
背中をしたたかに打ち付けられ、最初の者は息を詰まらせ悶絶した。
その光景に残る三人は、大きく城ノ介を取り囲んだ。
城ノ介はふらりとその内の一人に近づいた。
その背中を他の男が狙った。
が、その男は瞬時の間に城ノ介の正面の男に叩きつけられた。
それまでにせよ・・教貫が大声を上げた。
そう言う総帥に、城ノ介は歩み寄った。
「姉の指図により参った。」
城ノ介は短く言い、続けた。
「だが窮屈なことは嫌いだ。
俺は俺のままで居る。
それで良ければ・・」
彼は頭を下げることもなかった。
その不遜な態度に他の京見廻組の隊員が怒り、真剣を持って襲いかかった。
城ノ介はそれを見ることもなく躱し、逆手にその首を取り、折った。
京見廻組は同じ制服を着ている。
それを城ノ介はじろりと見た。
「あんなくだらない衣装には虫酸が走る。
俺はこのままで居(お)らして貰う。
まあ・・別動隊という所かな。」
不遜な態度で城ノ介はそう言った。
「三人を召し抱えるつもりであったが、五人全てを召し抱えよう。
四人は京見廻組に、そして一人はお前の下に置く・・それで良かろう。」
宗重に向かい教貫は満足そうに言った。
「一応ですな・・こんなに弱い者は要りませんが・・
俺の知る辺を集める。」
城ノ介は傲岸な態度でそう言った。
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