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御庭廻組、二番隊ではそのような争いは起きていなかった。
巴は静かに旅の道を歩き、紅蓮坊は珍しげに辺りを見廻し、晴海和尚の側には捨て二郎がいた。
「捨て二郎・・」
晴海は隣を歩く農民風の男に声を掛けた。
「その名はお止めください。」
捨て二郎は我が名を呼ばれたことに異を唱えた。
「私は甲賀の庄出です。
甲賀の庄は忍びの産地・・そこで私は雉(きじ)と呼ばれています。」
捨て二郎は突然、ケーンと雉の声色をまねした。
「これからは仲間内では“雉”と呼んでくだされ。」
「本名は。」
晴海が尋ねた。
「本名・・・
さて・・・」
雉は首を捻った。
「甲賀の庄では誰も本名を名乗りません。
それは自身の姿を隠し、闇に紛れるため・・私も親から貰った名は忘れてしまいました。」
雉は自嘲気味にそう言った。
「もう宜しいのではございませんか。
それ以上の詮索は無用かと。」
並木掃部ノ兵衛義貞が横からその会話を止めた。
「そう言う貴方は何と呼べばよいのですか。」
巴が口を挟んだ。
「兵衛で結構です。」
「俺は紅蓮坊だ。」
「そのままじゃない。」
東北の修験僧紅蓮坊の声に、巴は溜息に近い声を漏らした。
そういう一行は奈良、大和を目指していた。
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