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熊野の寺院から呼ばれた晴海は時の将軍足利義政の前に平伏していた。
「そちは鬼を斃したらしいな。」
義政はそう声を掛けた。
「斃したなどと滅相もございません。」
「だが巷ではそう聞こえて居るが。」
「退けたのみでございます。」
「では斃せぬのか。」
「鬼を見る目は少しはございます。
それ以上に鬼を斃せる者を見抜く目には自信がございます・・が、自身で鬼を斃すには・・・」
晴海は恐縮した。
「鬼を見る目・・それを斃せる者を見る目・・・」
期待とは違うその答えに義政は迷った。
父である六代将軍義教の急死、七代将軍義勝は夭折、自分は・・・・
夜な夜な鬼の姿と声に悩まされる。
ガバッと跳ね起きても、そこには何もいない。
呪い・・・義政はそう考えた。
足利家創始尊氏は人を欺き、多くの人を殺め、力を得た。
その呪いか・・・・
それとも・・
義政は武者を選りすぐり、御所にある自身の寝屋の回りを固めさせた。
翌朝、義政は雨戸を開けた侍女の悲鳴に起こされた。
寝屋前の庭中に死体が転がっている。
夢ではなく、真実・・義政は怖気を震った。
いつかは自分も取り殺される。
だがどうすれば・・・
窮した義政は、ある夜、物知りと噂の臣、前村大炊ノ介教貫を殿下に呼び、人を払って話し込んだ。
「晴海和尚という者がございます。
噂には鬼を斃したとか・・・」
そこで初めて、かの僧侶の名が出た。
「その噂は真実か。」
「直接、お聞き取りあれば如何でしょう。
彼は今、熊野の寺社に居ります故、お呼びになれば三日と空けずに参りましょう。」
「我が悪夢は真実なり。
家中には隠して居るが、猛者共が斃された。
彼等を凌駕する程の者が・・果たして・・・。」
「まず話しを聞いてみることが肝要かと。」
義政は頷き、手配を命じた。
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