前村大炊ノ介教貫(まえむらおおいのすけのりつら)

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 晴海和尚の期待はずれの答えに、義政は怒気を含んだ声で目の前に平伏する教貫に詰め寄った。  「好都合ではございませんか。  鬼を退け、鬼を見極め、鬼を斃す者を見る・・その和尚に任せ、鬼を制する隊を創っては如何でしょう。」  機転の利いた言葉に義政の怒気は緩んだ。  「もう一度、その僧侶に会い、言い聞かせては・・・」  義政はその声に頷いた。  「それにもう一つ・・」  教貫は言葉を続けた。  「闇雲に人を探しても埒はあきません。  いっそ武芸試合を開き、ご自身の目でも腕の立つ者を見極めては・・その方が「鬼」と言う言葉を出さずに済みます。  「その取り計らい、そちに任す。」  平伏した教貫はニヤリと笑い眼を輝かせた。  教貫の言を入れ、義政は再び晴海和尚を呼んだ。  「鬼を斃す者を探しては呉れぬか。」  「公方様のご意向であれば・・」  ベタッと平伏していた晴海は何度も床に額をこすりつけた。  「それらを使って、我が悪夢を消し去れ。  但し、この事は極秘とする。  お前の上役は前村大炊ノ介教貫。  あやつが全てを取り仕切る。  おぬしはそれに従え。」  晴海は平伏したまま頷いた。  「手始めに腕比べを催す。  その中からそちの手になる者を選べ。」  「ですが私には武芸の心得は・・・」  「先ほども言ったが、それは全て教貫が取り仕切る。  そちは、その中から意に叶った者を探せばよい。  それらを使って、我が悪夢を消し去れ。」  そう言って義政は簾の向こうを去った。     ×  ×  ×  ×  掃部ノ兵衛義貞はこうして決まった腕比べの張り紙を見ていた。  (これで勝ち残れば、俺も・・・)  試合日まで十日余り、義貞は人知れず修練に励んだ。  だが、出場する中には猛者が揃っていた。  槍の宝蔵院からは胤嗣、足利家直参の勇士村田善六、その他尾張斯波家の剣豪安藤宗重、安芸毛利家の誰それ・・壮々たる者が名を連ねている。・・とても義貞が勝てそうな者は居なかった。
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