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御前仕合
試合の日は来た。二十四人の者達は四つの組に分けられ、総当たりでそれぞれの一位四人が勝ち残り戦に挑む。
組み合わせが発表される前に、将軍義政が席に着いた。
その席は前村大炊ノ介教綱が苦心を重ね贅をこらした席であった。
将軍の隣には晴海和尚が座り、一段下の桟敷には伊東玄白が座っている。
「武芸見届け役は伊東玄白殿。
この仕合はなるべく寸止めとせよ。」
境内には多くの武士が集まっている。その中には桟敷に居並ぶ守護の守も居る。寺の土塀に梯を掛け、覗き込む町民も居る。
その中で自分が御前仕合を取り仕切る・・広い境内の庭に立つ教貫は得意満面で声を張り上げた。
「次に、仕合う組み分けを申し告げる。」
教貫は張りのある声を上げる。
「第一組、村田善六殿。」
呼ばれた者は幔幕を跳ね上げ場内に入ってくる。
それを手始めに呼び出しが続く。その中には伊東玄白の弟子もいる。
名が呼ばれ、仕合う者が現れる度に晴海は義政の耳元に口を寄せた。
二組目の筆頭は宝蔵院の坊胤嗣。
その組の最後に、
「巴殿。」
薙刀を腰だめに構えた女・・登場した者を見て場内はざわついた。
それまで義政の耳に何かを告げていた晴海は黙り込んで首を傾げた。
それに構わず呼び出しは続く。
三組目の二番目に呼ばれたのが陸奥の修験僧紅蓮坊。入って来たその魁偉な姿にそこに居並ぶ者達は驚きの声を上げた。
身の丈は七尺に及び、道服は着ているものの、その上には真っ黒な羽織を重ね、その背には真っ赤な炎が描かれている。首には真っ黒な鉄数珠を巻き、手にする得物は六尺棒・・大きな跫音を立てて進み出た。
掃部ノ兵衛の名は未だ呼ばれていない。
そして五組目、筆頭は安藤宗重。そしてその組の四番目、
「並木掃部ノ兵衛義貞殿。」
自分の名前が呼ばれた。
「あのひょえが・・・」
列席の中、京取り締まり奉行がプッと笑いを漏らした。
その組の最後は鬼木元治という名も知らぬ牢人者だった。
六組までの発表は終わった。
兵衛の出番は明日。今日は各組二つの手合わせが行われる。
今日の第一試合は村田善六。彼は簡単に相手を負かした。
その後も試合は淡々と続く。その中で目を引く試合があった。
宝蔵院の坊胤嗣と、唯一人の女、巴・・
胤嗣は地面にどんと槍尻を立て、女を睨み付けた。
巴は小柄な身体に似合わぬ薙刀を構え、 「やあ。」と気合いを込めた。
だが胤嗣は「心外な」という顔つきで、それを睨み付けているだけだった。
素速く巴は槍を横様に払い、体勢が崩れた胤嗣の尻を軽く打ち、場内に笑いが洩れた。
これには胤嗣が怒った。
槍を繰り出す。その柄を振り回す。殴り掛かる。
くるくると踊るように躰を回し、巴はその全てを躱し続けた。
攻撃はしない。だがその動きで胤嗣を挑発し続けた。
「それまで、引き分け。」
かなりの時間が経ち、伊東玄白は手を挙げた。
胤嗣は肩で息をし、巴は涼しい顔をしていた。
義政は玄白を呼んだ。
「仕合になりません。」
玄白はそう告げて自身の席に帰った。
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