延長したい、今夜。

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痛っ。 ピリッと刺すような痛みが、ぼんやりとした頭を刺激する。 少し顔をあげると、部屋の明かりは消えていて、カーテンの下から少しだけ光が差し込んでいる。 テーブルに腕枕して寝てしまったので、首を少し動かしただけでも痛い。 身体を起こすと肩からスルスルとタオルケットが落ちた。 ……かけてくれたんだ。 ベッドの方を見ると、啓太がこっちの方を向いて眠っている。 無防備でいたずらしたくなる顔。 そっと駆け寄ってそっと頬を触りたい。 でも、その権利は今の私にはないから、ただここで眺めるだけ。 時計の針は7時を回っていた。 結局、何もなかったな。 昨夜の自分の言動を思い返すと、恥ずかしさと虚しさと力不足に泣きたくなってきた。 こんな感じじゃ、私から気持ちを伝えても、伝わらない気がする。 ガサガサと音がした。 啓太が目を開けて起き上がる。 「ごめん寝てた」 「ううん。わたしも今起きたと…痛っ」 「大丈夫? やっぱり無理にでもこっちで寝てもらったほうがよかったな」 「そういえば、5分で起こしてって言った気がするけど」 首筋をさすりながら、啓太の顔を覗く。 「2、3回起こそうとしたんだけど、全然起きないからそのままにしといた」 「うー。自分で頼んどいてしかもタオルまでかけてもらって、ごめん」 急に啓太が破顔する。 「何言ってもさ、あと5分だけ、あと5分だけって言い続けててさ、面白かった」 何それ。ちょー恥ずかしいんですけど。 「完全に酔っ払いだったなー、わたし」 「ははは。あれだけ飲めばねー」 笑いあってた顔が急にまじめになる。
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