延長したい、今夜。

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心のなかで頭をがっくり落とす。 ああ、やっぱり、なんとも思ってないんだ。 希望には疑念が芽生え、失望に変わり、やがて絶望へ形を変えた。 こんなことなら、来るんじゃなかった。 奈美の話に乗るんじゃなかった。 いや、奈美は何も悪くない。 勝手に期待していたひとり盛り上がってた私が悪いんだ。 私は姿勢を正した。 これ以上ここにいてもただ悲しくなる一方だし、啓太にも迷惑がかかる。 「そろそろ帰るね」 「大丈夫なん?」 昨夜から事あるごとに心配してくれる優しさが、今は辛い。 「泊めてくれてありがとう。ごめんね、つきあわせて」 「ううん。久しぶりに朝まで遊んで楽しかったよ」 向けてくるはにかむ笑顔が、今は苦しい。 私はそばに置いてあったポシェットを手に取り立ち上がった。 「じゃあね」 台所の横をとおり足早に玄関へと向かう。 後ろから小さな声が聞こえた。 「夏菜」 「何?」 右のパンプスを履きながら顔だけ向ける。 もいいよ。何も期待してないよ。 「5分待ってもらっていい?」 駅まで送ってくれるから準備するってこと?  ううん、一人で帰るからいいよ。 私は首を横に降って向き直り、左足をパンプスに滑り込ませ、玄関のドアノブに手をかける。 「10秒でいいから」 いっきに縮んだな。なんだろう。 「なんで?」 これで最後にしよう。 そう思って振り返ると、目の前に啓太の顔があった。
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