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時間を見計らってトイレから戻ると、スマホを眺めてる啓太の姿が見える。
「ごめん、待たせちゃった」
「大丈夫なん?」
「うん。へーきへーき」
バシッと、きおつけの姿勢を取る。
大丈夫……かなあ。
アルコールのせいか、緊張のせいかドキドキは止まらない。
「終電、間に合わないね」
見下ろす啓太のはイケメンじゃないんだけど、童顔で人なつっこい表情が、隣で見ていて飽きない。
かわいい。
もっと近づいて見ることができたら……。
「とりあえず出よっか」
「そうしよ」
「はあー、美味しかった。満足、満足」
「結局一軒だけで5時間とか、長居したね」
店を出て、啓太と並んで大通り沿いの道を歩く。
身長は私よりちょっと高いくらい。
ちょうどいいと思うんだけどなあ。
通りは金曜日の夜とあって、午前1時近くなのに人の影と声であふれ、路上を多くのタクシーがスピードを出して通り過ぎていく。
「タクシー止めようか?」
と啓太。
「うん。そうする」
いつもなら、ほんといつもなら、そう言って左手を上げてタクシーに滑り込む。
だけど、今日はそうはいかない。
私はふっと立ち止まり、視線を地面に落とすしぐさをした。
そのまま歩いていた啓太が気づいて戻ってくる。
「どうしたの?」
「……」
ゆっくりと溜めをつくってから顔をあげ、啓太の顔を覗き込むようにつぶやいた。
「今日はまだ……帰りたくない」
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