延長したい、今夜。

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ブルーのダウンライトが落ちる、薄暗い部屋のなか。 寄せては返す波に逆らわず、心地よいリズムに身を委ねる。 大波が岩にぶつかりしぶきをあげるように、その時はやってきた。 来る。 「ーーいーーくーーー!!!」 喉の底から声を絞り出した私は、その終わりとともに、そのままソファへと倒れ込んだ。 はぁはぁはぁ…… 肩で息をするが、なかなか吸い込めない。 頭上のエアコンは動いているはずなのに、額から首筋から汗が出てきて止まらない。 「夏菜すごい」 啓太が感嘆の声をあげる。 「……そう? お酒結構飲んでるから……そんなに力入らなくて」 「いやいや、充分だよ」 「……ほんとは……もっと……いけるんだけど」 「そうなん? って、……最高じゃん」 「ほんと? ……嬉しい」 トルルルルル、トルルルルル。 2人で満たされた空間を、空気を読まない音が裂く。 うるさいなあ。 せっかくいいところなのに、この余韻を奪わないで欲しい。 それに。 まだまだ足りないと、私の身体が欲している。 「あと5分だって。どうする?」 「…延長したい」 「じゃあ、1時間延長で」 息も整ってきて、ソファに座り直す。 「99.989」 画面に大きく表示されたスコアと、その横できらめく1位という表示。 何十回も歌ってきたけど、今までの中で最高得点だ。 「マイク貸して」 画面が切り替わり、テレビで聴いたことのある最近の曲が流れ始める。 軽快でポップなメロディ。 リズムをとり左右にゆっくりと揺れながら、曲にのせて歌う柔らかい声を聴いていた。 机の上のタブレットを手に取り、次に入れる曲を選ぶ。 やっぱり、カラオケ楽しいな。 って。 こんなことやってる場合じゃない!
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