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【E田ヒデオ】
電話を切った。最期の言葉はヨシオに届いただろうか。
真夏の空を仰ぐと、その片隅に星より明るい光の粒が見えた。先んじて届いている轟音が空気を震わせる。見る間に近付いてくるあれは、1分後にはY町の上空に到達し、Y町を破壊しつくすだろう。
それでいいと思っていた。この町には良い思い出がない。嘘つきだと罵られ、形見の狭い思いをしてきた。人を信頼させるようなコミュニケーション能力があればよかったんだろうが、そんなもの少しも持っていなかったし、緊張するとよく「失敗」したので、もうどうしようもなかった。
俺もY町も、一緒に滅んでしまえばいいと思っていた。けれど……ヨシオはあんなにも泣いて、この町の死を惜しんだ。
ヨシオの泣く声を聞いて、俺も思い出したのだ。一緒に買って食べたアイスの美味しさとか、ヨシオの自転車の後ろに乗って風を切った開放感とか、ヨシオと一緒にいればどこにでもいけるような気がした、あの夏の日の永遠の切なさとか。
「あんな、実は俺……本当に超能力を持っとるとよ」
俺の言葉が届いていたとしたら、ヨシオはどう思っただろう。この期に及んで嘘をついていると嘲笑っただろうか。それとも、これが最期だからと同情的な気持ちで、信じるよと言ってくれただろうか。
夏の暑さは皮膚を貫き、身体の中からどんどん水分を奪っていく。俺は彼方の光に向けて手を伸ばした。
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