傘の下

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 少し前から気づいていたが、俺は、友人としてではなく、恋愛の対象として徹のことを意識している。  どうしたものだろう。ここで俺が「入る?」って聞くのは不自然か?俺が意識しすぎているだけだろうか。もはや自分で客観的に見れなくなっている。  ためらって、少し手元で傘を遊ばせる。かといって、俺一人で傘をさしているのも悪いし、もうここは言うべきだろう。意を決して口を開く。 「「傘入れて」「入る?」」  しまった。  色々迷いすぎたせいで、言い出しが遅れて徹と声がかぶってしまった。ええと、なんて言ってた? 今?  徹がこっちのほうを見ている。どうやら傘に入れてって言ったらしい。俺はあわてて傘を差しだす。徹もあわあわとして、差し出された傘に手を出す。俺はついそのまま、傘を手渡してしまった。  俺の傘を、徹がぎこちなく開く。  傘をさして、 「ほい」  と一言。俺に入るように促した。  ぶっきらぼうな中にも、気づかいと、遠慮が感じられるその言い方に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。きゅっと肩をすぼめて傘に入る。自分の仕草が乙女っぽくて、自分で笑えてきてしまった。
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