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俺たちは傘にしがみついて、駅に向かって歩きはじめた。こちらのほうに傘を寄せすぎているせいで、徹の右肩が雨に濡れている。
俺は傘の柄に手を伸ばし、徹のほうに少し押した。ちょっとだけ指がふれたのに躊躇したが押し切る。
「いいよ。お前んじゃん」
徹が言って押し戻そうとしてきた。
「いや、濡れてないから」
言って俺も押し返す。
「嘘じゃん。濡れてんじゃん」徹は俺の肩口を覗き込んで言う。
「いやいや、思うほど濡れてないって」ほんとうはまあまあ濡れてる。が、そう言って返した。
お互いに譲らず、傘の押し引きを繰り返す。
歩きながらそんなことをしていたので、傘はぐらぐらと傾き、気がつくと、ふたりとも片側の肩がびちゃびちゃになっていた。
「っふ」
「ふはっ」
俺たちはお互いの肩を見ると同時に吹き出して、
「あははははは!」
声を合わせて大声で笑った。
「もうちょい詰めりゃいいんだよ」徹が笑い混じりに言って、
ぎゅっ、とこちらに寄ってきた。
左手で、俺の身体も傘の下へ引き寄せる。
俺は思わず息を呑んだ。目を開き、顔が赤くなっていないかと思い、徹から顔を背ける。
徹が左手を傘に手をもどすとき、柄を握っている俺の手を、上から握り込む形になった。
心臓がどん、と脈を打ち、手に汗がにじんだが、平静を装ってなんでもないふりをした。
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