傘の下

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 なにか言うかな。と思ったけど、徹はなにも言わず、そのまま歩いていく。ちらと表情を伺うが、徹がどんな表情をしているのかよくわからなかった。気にしているのは俺だけか?  俺はなにも言えない。なにか言ったら、変に力を入れたり、動かしたりしたら、この手が離れてしまう。そう思って、徹の横で気配を殺して、そっと息をした。  心臓はまだばくばくしている。鼓動が伝わるんじゃないかと思うほど。  駅まで、あと5分。  あと5分だけ、気づかれないで。  俺の手よ、もう少しだけ隠れていてくれ。  俺たちの手はひとつになったまま、雨の中を進んでいく。  ばれないように、と思うと長かったように思えたが、実際には駅まではあっという間だった。軒下に着いても、名残り惜しくて、俺は傘を畳まずに少しそのまま進む。  徹の手が、すっと離れる。まだ残る体温が、俺の右手の甲を熱くした。その感触を仕舞い込むように、そっと手を下ろして握りこんだ。  徹と俺とは電車の行き先が逆だ。改札を抜けたら、もうお別れは近い。 「あれー、Suicaどこだったかなー」徹はリュックの中をごそごそしている。  そのとき、開いたリュックの口から折り畳み傘が見えた。
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