傘の下

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「えっ」  俺は思わず、声をあげる。    それに気づいて、徹がすぐにリュックを閉めた。  どういうことだ? 傘、忘れたんじゃなかったのか?  徹は改札を抜けると、さっさと行こうとする。 「ちょっ」  俺はつい、徹の手を掴んだ。 「傘……なんで……」  俺が言いかけると、徹は背を向けて立ち去ろうとする。 「待っ……」  俺は手を掴んだまま徹のあとについていった。  徹はすたすたとホームの階段へ向かう。よく見ると、その耳は真っ赤になっている。 「傘……持ってたんじゃん」  俺がぼそっとそう言うと、 「はぁ?」と、徹がでかい声で言った。  急ぎ足でホームに降りるとちょうど電車が来るところだった。すぐにその電車に乗る。  俺が帰る方向ではないのだが、ついそのまま一緒に乗り込んでしまった。徹の手を掴んだまま。
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