傘の下

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 俺たちは並んでシートに座った。横を向いて、徹の顔を見る。顔をそらした徹を見て、俺は意地悪く笑った。  結局徹はなにも言わない。傘を持ってきてないふりをしたわけも説明しないままだ。  まあいい。そっちがそのつもりなら。  俺は、シートの上で徹の手を握り直す。  徹が、ぎゅっと握り返してきた。  汗が、にじむ。俺の汗か、徹の汗かわからなくなっている。  俺たちの手は、再びひとつに。  電車は進んでいく。俺の家からはどんどん遠くなっている。 「どうすんの?」  徹が聞く。 「どうしよっか」  俺は答えた。 「おま……」  本当になにも考えてなかった。今のことしか。このままただ、どこまでも電車に揺られていたい。そう思った。
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