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合格発表
「合格発表まであと五分……」
そう呟く僕は小田悠斗、中学三年生。
今は、人生が決まる、大事な瞬間を、冬の冷たい空気の中で待っているところだ。手が冷えて氷になってしまうほど、風が強く攻撃してきている。
あと五分後には、この高校へ進学出来るかどうかが決まる。三年間の努力の全てを知ることになるのだ。
僕は、受験した高校の掲示板の前に立ち、五分後の合格発表まで、ドキドキしながら待っている。こんなに心臓の音が聞こえてくることが人生であっただろうか。バクバクと頭に響いて鳴り止まない。
だんだんと緊張が増していき、うろうろと……その場を行ったり来たり往復してしまう。落ち着くことはできそうにない。
「そんなに緊張しなくていいよ、リラックスリラックス」
「あ、ありがとう……」
白い息を吐きながら、僕の隣で緊張を解こうと声をかけてくれたのは、クラスメイトの成瀬琴美ちゃん。僕の幼馴染でもある。今日も綺麗な姿勢を保ったまま、スラッと立っている。
僕は、彼女のおかげで、少し落ち着きを取り戻す。こんな大事な場面でも、冷静に行動できる琴美ちゃんが羨ましい。彼女には、どっしりとした、安心感があるのだ。隣にいてくれるだけで、僕はゆったりとした心を取り戻すことができる。
もちろん幼馴染の彼女も、同じ高校を受験した。
そんな頼れる彼女は、まるで合格を確信してるような、発表前とは思えない力強い眼差しで掲示板の前に立っている。
そして、気がつけば、発表まであと四分……もうすぐだ……。
お願いです……一緒に合格していますように。
顔の前で、僕は、手と手を合わせ願う。
すると、突然……。
「ねぇ、悠斗くんは、合格したらこの学校に行くの?」
「え?」
琴美ちゃんが、突然僕にしなくてもいい質問をしてきたが、ちゃんと返事をした。
「もちろん、行く……よ?」
「私、行かないわ」
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