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「それはきっと多分、九部良くんの影響だよ」
「だって学校行事の合唱コンクールの伴奏なんてさ、誰が弾いてもいいと思うんだよ。あの人ならいいかって過半数が納得する人だったらそれで。なのに私のことにこだわって、私よりも私が伴奏することに一喜一憂して、それで本番前に私が倒れちゃいましたーなんてことになったら、絶対九部良くん落ち込んじゃうだろうなって、そう思ったんだ」
九部良くんが誰よりも私のことを考えてくれるのなら、私はその分だけ彼のことを考えようとそう思った。彼が自分が傷つくことを気にも留めないというのなら、彼が傷つかないように私が気に留めようと思った。だから、これはそんな簡単な話なんだ。
「千和子、変わったね」
「うん。変わったと思う」
以前の私なら素直にそう吐き出すことも難しかったのではないかと思う。内に篭って嵐が過ぎ去るのを待ってばかりいたあの頃よりは何歩か前に進むことができただろうか。
「そういえば、みやちゃん。あのとき九部良くんにはなんて言葉をかけたの?」
「え?」
「久部良くんってば、一目散に私の家まで飛び込んできたかと思えば知らないうちにお母さんとも仲良くなっちゃってるし」
「コミュニケーション能力の化け物じゃん……」
「うん。だから私もみやちゃんが久部良くんにどんな言葉で発破をかけたのかがずっと気になってて」
「あー…………っ」
当時の記憶の引き出しをがさごそとまさぐりながら次第に答えを見つけたのだろう。みやちゃんはぎゅっと力強く目蓋を下ろすと眉間に皺まで寄せてプルプルと小刻みに震えだす。
「ないしょ」
「えーーーっ!?」
みやちゃんのその態度に私はずっこけそうになって不満の声をあげる。絶対にあの表情は何かに思い当ったときのそれだったのに秘密にされると余計に気になっちゃうやつじゃんっ。
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