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翌日。
午前の授業を消化して、昼休みになると中庭まで足を運んだ。手には購買で拝借した総菜パンと菓子パンを詰め込んだビニール袋がひとつ。
時計の針が十二を指すと、近所のパン屋が学内に宅配で届けてくれるサービスだ。人差し指に引っかけた袋が、がさがさと耳障りな音をあげて規則的に揺れている。
雑音は呼びかけてもいないのに昨晩の声を蘇らせる。
『でも、お前はそれでいいのかよ?』
放っておいてくれ。頭の中で何度となく繰り返される問いかけは、一年前に振り切ったと思った残り粕だった。
どうせいつかは消えてなくなるのなら、勿体ぶるようにその残像を象らないでほしいと思う。
うちの学校の中庭を素直に表現するのであれば不人気スポットだ。校舎に沿うようにして配置された花壇には豊かな花々が植えられていて、ご丁寧にベンチまで置かれているのに人が寄り付かないことで有名だ。
というのも、日差しを遮る木々がここにはなく、この季節になると直射日光が大活躍する位置取りをしているからだ。
日焼けを嫌う女子はわざわざここで昼食は取らないし、男子が花壇を背景にご飯を食らう光景というのも同様に稀有なものだった。
だから一人で黙々と考え事をするとき、俺がここを訪れることは少なくなかった。
じめじめした教室の中よりは、緑が生い茂っていて、容赦のない日差しと戯れることができるここの方がマイナス方向に考えが寄らないというのは俺の弁。
我らがグッチーの占有地である図書室に繰り出すことも考えたが、あの人はこういうことに関しては異様に勘が良すぎる。
事情を察しているあの人が相手でも踏み込まれたくない領域というのが俺にもあったから視界に入ったベンチを目指した。
「おっと~、これはこれは一組の変人であるところの九部良くんじゃ~ん」
ベンチに腰掛けたところで空から聞き馴染みのある声が放り込まれた。
ぐいっと視線を上空に投げかけてみると、校舎と校舎をつなぐ二階渡り廊下からトレードマークのポニーテールを揺らした少女がぶんぶん手を振っている。
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