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「お~う、これはこれは三組のバカこと宮本さんじゃないか~」
「なっ、一端のレディにバカとは失礼な! もうそれ純粋な悪口じゃん!」
いやいや、変人呼ばわりしてきたのはそっちからだろ! 変人も立派な悪口なんですけどぉー!
脳内で弁解しながら、逆光になってうまく輪郭をとらえられない彼女のことを見上げる。
「ちょっとそこで待ってて~」
口元に手を当てながら今日も元気に宮本は声を張り上げている。どうやら中庭にお邪魔しにくる魂胆のようだ。
俺はそれだけを聞き届けると視線を切って、ビニール袋から総菜パンを取り出そうとガサゴソしていると──
──ダンッ!
「宮本、登場ッ!」
「……は?」
宮本はあろうことか渡り廊下から飛び降りて登場して見せた。川崎が目にしていれば牢獄行き案件だ。
「どう、カッコ良かった?」
「パンツ見えるぞ」
「ちっちっちっ。ちゃんとスパッツ履いてるよ」
どうでもええわ。
****
「で、珍しいじゃん。九部良くんがこんなところで黄昏ながら一人でお昼ご飯だなんて」
宮本は小さな弁当箱を持ち上げて、長らく付き合ってきた友人のように軽い調子で訊いてくる。
「そうか? たまにしてるけどな」
「あ、待って待って。理由ならあたしが当ててあげるから」
指先をあごに当てて思考を巡らすポーズ。さながら探偵にでもなったような面持ちはどこか滑稽だったから、そのお遊びに付き合ってやることにする。
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