第九話『夜に浮かぶ月』

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「お~う、これはこれは三組のバカこと宮本さんじゃないか~」 「なっ、一端のレディにバカとは失礼な! もうそれ純粋な悪口じゃん!」  いやいや、変人呼ばわりしてきたのはそっちからだろ! 変人も立派な悪口なんですけどぉー!  脳内で弁解しながら、逆光になってうまく輪郭をとらえられない彼女のことを見上げる。 「ちょっとそこで待ってて~」  口元に手を当てながら今日も元気に宮本は声を張り上げている。どうやら中庭にお邪魔しにくる魂胆のようだ。  俺はそれだけを聞き届けると視線を切って、ビニール袋から総菜パンを取り出そうとガサゴソしていると──  ──ダンッ! 「宮本、登場ッ!」 「……は?」  宮本はあろうことか渡り廊下から飛び降りて登場して見せた。川崎が目にしていれば牢獄行き案件だ。 「どう、カッコ良かった?」 「パンツ見えるぞ」 「ちっちっちっ。ちゃんとスパッツ履いてるよ」  どうでもええわ。  **** 「で、珍しいじゃん。九部良くんがこんなところで黄昏ながら一人でお昼ご飯だなんて」  宮本は小さな弁当箱を持ち上げて、長らく付き合ってきた友人のように軽い調子で訊いてくる。 「そうか? たまにしてるけどな」 「あ、待って待って。理由ならあたしが当ててあげるから」  指先をあごに当てて思考を巡らすポーズ。さながら探偵にでもなったような面持ちはどこか滑稽だったから、そのお遊びに付き合ってやることにする。
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