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「そうだね、じゃあ質問をしよう。九部良くん、あなた今日朝ご飯は食べていませんね?」
「……そうだな。今日どころか毎日食べてないけどな」
朝は食べない派だ。こだわりがあるわけではなく、新聞配達のバイトがある日もあれば、ギリギリまで寝ていたい日もあって、食事を取るルーティーンを一日の中に組み込めていないだけとも言えるが。
「ふむふむ。じゃあ次の質問ね。昨日の晩御飯は肉じゃがでアゴが落ちるほど美味しかった。そうですね?」
「いや、肉じゃがじゃねえよ」
宮本は俺からの返答に満足そうに大きく何度か頷いてみせる。いや、得意げな様子だけとま間違ってるんだからね?
「あらためて質問ね。昨日の晩御飯はカレーだった。イエスかノーか半分か」
「半分」
「半分っ!? ……って、ちょっとちょっとぉ九部良くんふざけてもらっちゃ困るなあ。これも立派なあたしの名推理の足がかりだというのに!」
「ふざけ始めたのはお前の方だろ!」
「ふふっ、まぁそうとも言うね」
宮本は陽気に親指を立ててあっさりと己の非を認めると、同じベンチに腰を下ろして手に持っていた小さな弁当箱の包みをほどき始めた。
「ここで食うのかよ?」
「冷たいこと言わないでよ。あたしと九部良くんの仲じゃん?」
同じベンチに並んで昼飯食べるほどの仲の良さではないはずなんだけどなあ。
会話ですら今日で通算二回目。克葉以上に打ち解けていないというのに距離感の近い人間のコミュニケーションの取り方というのはいつも不思議なものだ。
「それで、千和子はどう?」
黄色い箸で弁当のおかずをつつきながら宮本が口零したのは想定できたセリフだった。
おそらく克葉との状況が知りたいんだろうなってことは声をかけられたときからわかっていた。
だから敢えて煙に巻くようなことはしなかったし、克葉までの道をつないでくれた彼女が隣で昼食をとることも許した。
「どう、とはまたざっくりした問いかけだな」
「だね。あたしも思った。順調なの?」
しっかり箸でつまんだはずのミートボールをぽろりと掴み損ねる宮本を視界に入れながら、まだ少しだけ温もりの残ったバケットを乱暴に口で食い千切る。
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