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「きっとね、スーパーマンじゃなくたっていいんだよ」
「スーパーマン?」
唐突に語りだした宮本の場違いな表現に首をかしげる。
「成績がすごく優秀で、スポーツだって万能で、手先が人よりも器用だったり、そういう人じゃなくてもいいんだよ」
「え、なに? 俺は頭がバカで、スポーツできなくて、不器用だって間接的に言われてる?」
「そんな完璧人間じゃなくてさ、熱苦しくて自分のエゴをお前のためにやってるんだって押しつけられる人が、今の千和子には必要だって思うんだよ」
「…………」
「そういう意味で九部良くんはぴったりだよね」
宮本は俺の事情なんて何も知らないはずだった。
いいや、もしかしたら一端は知っているのかもしれない。俺は奇しくも学校では有名人。
詳細までは知らずとも一年前に起きた変化については知っていてもおかしくはない。
けれど、事の顛末や経緯については無知のはずだ。俺と米沢と、あと数人。
誤解のない事実を知っているのは限られた人間だけだから。
これは、きっと偶然なのだ。選んだ言葉が偶然に俺の心の弱いところをノックした。
わかっていても、狙ったわけじゃないからこそ、それは米沢に埋め込まれたネガティブの種を抑え込むには十分すぎるほどのエールになって。
「まあな」
どこか気恥ずかしくて素っ気ない返事をする羽目になった。過去なんてかなぐり捨てて、踏み込むための力になってくれた。
「はい! 湿っぽい話は終わり!」
らしくないと自分でも気づいたのだろう。
宮本はぱしんと抜けるような音で手のひらを打ちつけると、
「せっかくの中庭なんだから恋人っぽいことしないとね。はい、あ~ん」
いつもの様子で箸でつまんだ出し巻を俺の口元まで近づけてくる。
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