第一話『九部良倫と合唱コンクール』

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 北村中学の”問題児”といえば教師たちはこぞって一人の生徒の名を挙げる。 ──違う学校の入学式に参加してしまったのはアイツしかいない。 ──許可も取らず勝手に校内ラジオに興じるのはアイツしかいない。 ──グラウンドに落とし穴をしかけて自分でハマって見せるのなんてアイツしかいない。  このように、その生徒の目立った行動を突つき出せば枚挙に暇がない。もう言ってしまえば“叩けばホコリの出まくる布団”のようなものだ。  ある筋の話では金曜日の夜遅くに開かれる職員会議の酒の肴はいつもその生徒の話題で持ちきりなのだとか。  けれどやはり一番厄介なのは、たとえその生徒がそんな教師の様子を人伝てに聞いたとしても、慌てるどころか期待されているのだなあと大きな勘違いをしてしまうくらい図々しい神経の持ち主だというところにある。  手塩に掛けた生徒は誇らしい? 手のかかる生徒ほどかわいい? 笑わせるな。進学校のぬるま湯に浸かった教師は押しても引いてもブレない生徒がいることを知るべきだ。 ──その問題児の名は、久部良倫。  学校創設以来もっとも手の焼いた生徒だと後に彼の卒業式に涙し、焼肉をおごってくれた教師はそう語るのだが、それはまた別の話。  これは10年以上も昔。学校の超問題児だった少年が送った日常のひと欠片。    とある少女と衝突し、絆を深め、恋に落ち、その恋人とのその後までを綴った追懐録だ。
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