第一話『九部良倫と合唱コンクール』

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 お昼休みのざわざわした喧騒も本鈴が響けば静かになって各々が自主的に着席する。これは進学校のせめてものプライドなのかと思う。  席に座っていても小声で雑談をする者というのは一定数いるが、これも教師が教壇に立てば、たちまちぴたっと制止する。お利口ちゃんの中だから余計に異端児の久部良倫が際立つんだ仕方ないというのは俺だけの弁である。 「おーし、じゃあHRを始めるかあ」  毎週月曜の昼明けの授業はホームルームというのがうちの学校の決まりだった。どこの学校にでも設けられた担任と生徒の交流の時間というやつだ。内容はクラスによって様々だ。  教師が思いつきでネタを提供することもあれば、テスト前なら自習時間に当てられることもあるし、逆に生徒に意見を募って何をしたいか考えさせられることもある。  ちなみに俺は何度も挙手して自身の賢しい提案を披露しようとアピールし続けているのだが、一度も答えさせてもらったことがない。老眼ならメガネかけてこい。 「えー、今日の議題は、ずばり合唱コンクールだ!」  カッカッと黒板にチョークで殴り書くと、最後にはバンッと黒板に手を押しつけちゃったりして林先生が強く息巻いた。あ~、たまにクラスの行事に生徒よりもやる気の先生っているよね~。めっちゃ寒いやつ~。  林はまさに典型的なそのタイプの担任だった。自分は何もしないのに生徒の尻を叩き、優勝をしなければ意味がないとのたまうくせに、ダメだったときは勝ち負けなど関係ない頑張ったことに意味があるんだと定型句を口にする薄っぺらい教師。 「やるからには勝とう! 笑顔で合唱コンクールを終えてクラスの絆を深めるんだ!」  うわあ~出たよ~合唱コンクールで絆ニキ~(笑)  こういう教師って運動が苦手な文化系の子にも体育祭で一番を強制して、運動部でまるで絵心のない子に絵筆を握らせてやれ最優秀賞だとプレッシャーをかけるんだよなあ、無意識的に。ボク知ってるよ!
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