食せプリン

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 プリンには矜持があった。  一人の二歳児の子供の御褒美として食して貰うこと、それだけを期待して胸を張ってバーコードを通された。それだけに、このまま賞味期限切れのまま棄てられていくことを何よりも恐れていた。  ああ! 賞味期限!  プリンには誇りがあった。たとい一個九八円のプリンであろうとも、子供のその日一番の御馳走としてその生涯を終えられる、この想いを胸に、購入されし日から今か今かと冷蔵庫の一角で冷えておったのだ。 「それが、ああ! そんな!」 今の時刻は夜八時四十五分、賞味期限まであと三時間。  プリンは激情に飲まれ、破棄される恐怖に身をよじった。  購入したことを忘れる、果たして子供の御褒美として選ばれし自分に、こんなことが許されるのか! 「なんとかならぬのか!」 プリンは怯え、天を仰いだ。 「なんとしても私はリキトに今日中に食べてもらいたい! 誰か! 誰か知恵を持つものはおらぬのか!」 冷蔵庫の奥深く、五年物のラッキョウが言った。 「無理です、お若く、甘く、滑らかな御方」 粒粒の集合体となりて、甘いラッキョウ酢に浸かった御老体が、弱々しく言う。 「我々がこの家にやって来たのは、リキト様がお産まれになるさらに二年前。この冷蔵庫を司るノゾミ様、そのお婆様が我々をお作り下さった、しかし、この五年の間、我々を使うことはない。 ノゾミ様は忘れっぽいのです、それはリキト様がお産まれになってからより顕著に。 現に我々はこの冷たい冷蔵庫の中で、五年の時を過ごした。そこの玉子も、賞味期限など十日ほど過ぎておる。 ですが元気です、健気です、それはもう、たまごかけご飯には向かぬが、ゆで玉子にはなんの問題もない。 どうかどうか、甘く、滑らかな御方、賞味期限じゅうに食べてもらえるなどという甘い考えはお捨てになって、共にこの冷蔵庫で時をすごそうではありませんか」
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