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「手伝いましょう」
低い声で唸ったのは、冷蔵庫そのものであった。
その声に冷蔵庫や冷凍庫の食材、保冷剤、皆が畏怖した。
「プリンよ、プリン。私は長らく、この家であらゆる食材を冷してきました。その中で、順当に食べられたもの、腐って溶けていったもの、乾いてしまったもの、沢山のものを送りました。こうして唯、腹の中で過ぎていく食材の中で、貴方のように想いを伝えてくれた方は初めてです。手伝いましょう」
時刻は二十二時を過ぎていた。
冷凍庫の一言に、他の食材も色めき立つ。
「私の自動製氷機能が働き出し、氷を落とす音がする頃、ノゾミとその夫、タカヒトは台所にやって来ています。その音を聞いて、誰かが冷蔵庫を開けるかも知れない。その時に貴方が一等目立つ場所に居りなさい。それが最期の好機です」
そうだそうだ、冷蔵庫の皆は体をひねり、プリンをノゾミとタカヒトの一番目の入りやすい高さの段に誘導した。
おお! このような位置に移動したのは、購入されたその日以来だ! リキトの目の届く箇所に置かれると、夕飯前に食べると癇癪を起こされるからと、奥に奥に押しやられ、いつしか自信を失い、希望を捨て、蓋に印字された日付を恨めしく思うたこの私が!
時に購入者のノゾミを恨み、時に荒れ狂う二歳児のリキトに憤り、捨てられることに怯えたこの私が!
ありがとう、ありがとう。プリンは誇らしかった。
冷蔵庫の奥のラッキョウは涙を流したが、ラッキョウ酢に漬かっていてその涙が分からなかった。
ゆきますよ、と言う声が、冷蔵庫から聞こえた。
賞味期限切れまで、あと五分――。
冷蔵庫が震え、製氷機能がゴトゴトと音を立てた。
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