父の夏

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一枚の写真に、夏が閉じ込められている。 汚れたユニフォームで全員丸刈り。白い歯を見せて笑っている。中央に居るのがキャッチャーの父。隣にいるのがピッチャーの坂本さん。 「あの夏はとびきり暑かった……」 何度も何度も繰り返された父の青春の話。 野球しかなかった、と誇らしげに笑う。 もう覚えちゃったよ。 今年は、まだ聞いていない。 父の目が覚めないから。 夏が始まる前に、父は倒れた。 「お母さん、交代するよ」 そう声をかければ、母が首をふる。 背中が小さくなった気がした。 いや、いつからだろう。だんだん父も母も小さくなっていたのだと思う。 変わりないと思い込んでいたから、気づかなかっただけ。 病院の駐車場には桜並木があるので、蝉の声がやかましい。 デイルームで誰かがテレビを見ているのだろう。高校野球の応援が聞こえる。 吹奏楽が昔の曲を速いアレンジで奏でる。 夏だよ、お父さん。ねえ。 大好きな高校野球。 白々しいほど完璧な夏があるのに父の周りに壁でもあるかのようだった。
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