モスキート

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     君に想いを伝えられるのは、あと5分だけ  だから、どうか僕の想いを聞いてください  あの日、僕が出会ったのは天使のような君だった  海の見える高校、屋上、給水タンクの上で物憂げに空を見上げていたね  その瞬間、何かに撃ち抜かれたように棒立ちになった僕を見て  君はふっと頬を緩めたんだ  多分、その瞬間、絶対に忘れない  僕が恋に落ちた音  鼓膜が破れそうだった  きっと君には聞こえなかった  派手で、品のない、それでも一途な恋の歌    それから僕の妄想なんかじゃなく、僕と君は付き合った  詩的な僕をからかう君の方がロマンチストだったと思う  君が振り返った気配がして  何かとんでもない音が聞こえた気がしたんだ  多分、その瞬間も、絶対に忘れない  君が何かに落ちた音  耳に心地いい  きっと君には聞こえなかった  静かな、さざめき  いつの間にか僕らの中身が入れ替わっていることに  いつの間にか気付いていたのかな?  ロマンチストは卒業  リアリズムに入学  だから「別れよう」の言葉が冷たくて  受け止めた君の心が温かかった  ごめん。  世界の狭間に落ちた音  くぐもって聞こえた  きっと君には聞こえなかった  僕だけが知っている歌  割れたような醜い声で  聞こえ方も気にせずに歌った  きっと君に聞こえるように 聞こえるように  派手で、品のない、それでも一途な恋の歌
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