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楠木さんが手を振って嬉しそうにかけ寄ってきた。
「遠藤君、今日バイトじゃなかったの?」
そんな顔するから誤解するんじゃないか。
「楠木さんこそ、今日バイト休みだよね」
「うん、今日は穂積さんとご飯する約束してたから」
なんだよ、それ。
「楠木さんって彼氏いるのに、なんで俺に関わるの、暇潰しなの、ひとりでいるのが嫌なだけなんだろ、俺がどんな気持ちでいるとか考えないわけ」
穂積さんと聞いて反射的に言葉が出てしまった。
楠木さんは完全に困惑している。
「彼氏なんていないよ」
「でも穂積さん穂積さんってバイト先の先輩と仲良くやってるんだろ」
頭悪過ぎる、嫉妬してますって宣言してるようなもんだ。
楠木さんが、あっと手で口を覆った。
「穂積さんって、女の人だよ」
寝癖の付いた髪、左右色の違う靴下、鍋でラーメン食べる、登山用の寝袋で寝てる…
その時背後で「楠木さ~ん」と間の抜けた声がした。
あの整理カウンターにいた女の人。
「あれぇ、彼氏も一緒だったんだ」
地球のことなんかで動じなさそうに宇宙物理学の穂積さんが近づいて来た。
嘘だろ。
情けなく立ち尽くす俺に楠木さんが近づく。
「彼氏ってことで、いいのかな…」
楠木さんがそっと俺の手に触れる。
「…うん」
せめて今は逃げないで、引き寄せた手を強く握りしめていようと思う。
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