物理の穂積さん

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「パイロットや客室乗務員は高所に長時間いるから宇宙線で被爆しやすくて癌になる可能性が高いんだって」  病理学で癌について講義を受けた後、弁当を食べながら楠木さんがしゃべる。 「で、物理の穂積さんに宇宙線のこと聞いてみたの」  また「物理の穂積さん」か。 「宇宙線には太陽フレアも含まれててね、太陽フレアって太陽黒点の近くで…」 「次、リハビリ実習だから、俺行くわ」  菓子パンの袋を片付けて立ち上がった。  俺には宇宙物理学なんてさっぱりわからない。わかってるのは楠木さんが大通の大型書店でバイトを始めたってこと。楠木さんは地下1階の「医療書コーナー」の担当になって「医療の楠木さん」と呼ばれていること。同じフロアに「物理書コーナー」があって先輩バイトの「物理の穂積さん」と仲良くなったってことだ。  いわく、穂積さんは寝癖をつけたままバイトに来る。  いわく、穂積さんは左右別々の色の靴下を穿いて来る。  いわく、穂積さんは自炊するけれど家に食器が無いので鍋のままラーメンを食べる。  いわく、穂積さんは登山が趣味で家でも寝袋で寝ている。  いわく、穂積さんはH大の院生で宇宙物理学を研究している。  いわく…
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