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「なんですの、貴女は……早く何処かへ行ってしまいなさいな。私、今とても忙しいんですの」
しっしと、クリュサオラが煙たがるように手を振る。
この数十秒間のやりとりで、目の前のゴスロリ少女は大した脅威になり得ないと感じたのだろう。つい先程まで緊張していた彼女の髪は、通常の人間のそれと同じように頭からだらりと垂れ下がっている。
対するゴスロリ少女はといえば、まるでそんなクリュサオラの内心を気にも留めていないようにいないように――いいや、ただ気付いていないだけなんだろうが――喋り続ける。
「勿論そうさせて貰うわ。貴女を倒してからね」
これから弟とキャッチボールする予定もあるしね。
と言いながら少女はバットを素振りする。
バット使うんだったら最早キャッチボールじゃないような……。
「あら? 貴女如きがこの私、クリュサオラに勝てると思って? そこにいる日本最強クラスのヒーロー、ブレイブドラグーンでさえあの有様ですのよ?」
地面に伏せる俺をクリュサオラが誇らしげに指差す。
敵に圧を掛けるために敢えて自身の力を誇示するような発言をしたのだろう。
「ヤナギクラゲ属? シーネットルみたいな名前ね」
「だからさっきからクラゲって言ってるだろう!?」
「どこからどうみてもヒト属なんだから名前もホモに変えればいいのに」
なんて無茶無茶な……そんな理由でそんな名前つけられたら堪ったもんじゃない。
「にしても。『雄弁』、効かなかったわね……やはり所詮は過去に生きた人間の言葉。今の時代では使い物にならないわ」
「いやいやいや! それを『次世代』とか言って持ち出してきたのお前だからな! それにその諺の本来の意味、全然違うからな!? 第一『雄弁』ですらなかったろ、さっきの!?」
「やはり時代は暴力ね。暴力が全てを制するのよ」
「聞けよ!?」
「聞いてるわよ。やはりマ◯ドナルドはマッキン◯ッシュと混同しないようにマクドと略すべきっていう話よね?」
「何一つあってねぇ!?」
「まあまあ見てなさい。オージースタイルに倣い、マク◯ナルドをマッカスと略す派の私の実力を」
「それ略称じゃなくて蔑称の間違いじゃないか!?」
「マク◯ナルドってなんですの?」
「クリュサオラはもっと侵略対象の一般常識を学んだらどうだ!?」
怒涛のツッコミを終えた俺は、肩で息をしつつ目の前の少女二人を交互に見遣る。片やドヤ顔ゴスロリ少女、もう片やぼけーっとした表情で目をぱちくりさせる怪人少女が見えた。
くそ、ゴスロリ少女だけでなくクリュサオラからもボケが飛んでくるだなんて! というかこの顔本当にわかってない顔だ。天然ボケというやつか。
畜生。怪人とはいえ、こんなマク◯ナルドすら知らない箱入り娘なんかにボコボコにされて身動きが取れなくなっている自分が情けなくなってきた。
もう仲間に合わせる顔もない。
そんな気持ちに押されて顔を伏せた。
その時だった。
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