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「何ですの? その手は」
クリュサオラの方から間の抜けた声が聞こえてきた。
声に釣り上げられるように再び顔を上げてみれば、目を点にしたクリュサオラの前に、握り拳を出したゴスロリ少女が見えた。
「何って、ジャンケンよ」
「だから『どうしてジャンケンを?』と私は」
「あら知らないの? かの有名な〈西遊記〉に登場する三蔵法師のお供、孫悟空はジャンケンに因んだ技で敵を倒したというわ」
困惑するクリュサオラの問いに、ゴスロリ少女は澄ました顔で髪を掻き上げ答える。
それ孫悟空は孫悟空でも違う孫悟空なんだよなぁ。
「〈西遊記〉ってなんですの?」
英語だけじゃなくて〈西遊記〉も知らないのか!?……まあこうして前線に出てきているということはきっと戦闘員なんだろうし、そういった教養が無くてもおかしくは――
「ふっ、〈西遊記〉も知らないだなんて。無知にも程があるわね」
「お前、人のこと言えないだろう!?」
大声でツッコミを入れると、少女が不満げに顔を膨らませて言い返してきた。
「馬鹿にしないで。海苔巻煎餅が作った女の子のロボットがスライムを倒すカンボジアの古典小説でしょう?」
「小説という点しか合っていない!?」
「これはエブリスタの『妖しい奴らがぞろぞろ』〈特集 百鬼夜行〉選出間違いないわね」
「〈百鬼夜行〉ってなんですの?」
「お前みたいな化け物がパレードしてるやつだよ!」
「ふっ、ブラジルみたいね」
「〈ブラジル〉ってなんですの?」
「沖縄の方言で『豚汁』を指す言葉よ」
「嘘を吹き込むな!」
「ぶた……じる……?」
「まずそこがわかってない!?」
「豚汁のことよ」
「あー、なるほど。理解致しましたわ。太った人間のお肉を使った汁物のことですわね」
「お前の中の豚汁の認識どうなってるの!?」
「あら? それうちの実家でよく出てた〈猿汁〉のことじゃない。スジが多くて嫌いなのよね」
「人間を猿扱いすな! ってかなんて物騒な料理が出る実家なんだよ!?」
「え? 貴方の家には出ないの?」
「珍しい家ですわね」
「え!? 何!? うちの家がおかしいの!?」
普通だよな!? 人間の肉が入った味噌汁が食卓に並ばないのは至って普通だよな!? なんか不安になってきたぞ!?
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