バス停にて

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 ――こんにちは。よかった。間に合ったみたいですね。もう行ってしまったかと思いました。次のバスは……ああ、次が最終でしたか。あと5分ほどですね。  先ほどお寺のあたりであなたをお見かけしたと思うのですが、こちらへはどのようなご用件で?  ……ああ、なるほど、そうですか。この辺りの伝承を調べるなら、あの寺は外せないですからね。  わたしですか? わたしは……そうですね、妖怪退治とでもいいましょうか。  ……ふふ。その「ヤバいやつに話しかけられてしまった」と言わんばかりの反応……いえ、いいんです。当然の反応ですので。  まあ、バスを待つあいだの暇つぶしと思って聞いてください。  祓うのにはこの札をつかいます。ああ、何も書いてないのが不思議ですか。それはそういうものなのです。まあ、書いてあったほうがよいのですが。ハンマー投げにおける掛け声みたいなものです。  書いたものがこちらです。……料理番組みたいでしょう。ウケてよかったです。つい先ほど、急いで用意したのです。ウケを狙うために用意したわけではないのですが。  これはあなたのために用意したのです。……いえ、売りつけるのではなく。50万円のところ、今なら特別価格5万円で……冗談です。つい。  さて、冗談はこのくらいにしておきましょう。大丈夫です。わたしもプロですから、すぐに終わります――  ――気がつきましたか。体調はどうです? ……大丈夫そうですね。  どこまで覚えていますか? ……いえ、特別価格は覚えていなくてもよいのですが。  山へ向かうバスはもう出ました。町へ向かうバスは次が最終です。わたしも用が済みましたので、それに乗りましょう。  あなた、本当なら町へ帰るつもりだったでしょう? ところが、先ほどは山へ向かうバスに乗ろうとしていました。  あなたに憑いていたのは、もともとあの山の沼に棲んでいた妖なのです。あの寺に封じられていたのですが、封印が弱っていたのです。  わたしはそれを祓うために呼ばれたのですが、一足遅かったようです。  ですが、自力では帰れないほど力を失っていたのでしょう。たまたま居合わせたあなたに憑いて、沼へ帰ろうとしたようです。ついでに沼に引きずり込めば一石二鳥、とでも思っていたのでしょう。  沼へ行こうとしていたことは覚えているでしょう。ですが、なぜ行こうとしたのかまでは、覚えていないのではないですか? 封印が解けたばかりで力が戻っていなかったようで、あなたを無意識のうちに沼へ向かうように仕向けることしかできなかったようです。  そういうわけで、わたしがあと5分遅かったら、今頃あなたは沼の底だったかもしれません。  ……妖ですか? 先ほどの札を使って祓いました。  この札はそれを封じるのに使用されていたものを写したものです。急いだのでいいかげんな部分もありますが、まあ、些細なことです。  ……この札ですか? もはやただの紙切れですので、差し上げてもかまいませんが。……いえ、タダで差し上げますよ。もしかして、最初から買うつもりで値段を聞いたんですか?  確かにこの札は、あなたの調べていたこととも関係していますからね。こんなものでよければ、どうぞ。  ……喜んで頂けて幸いですが、あなた、結構危ない目にあったはずなんですが……わたしの話、信じてませんね? いや、まあ、いいんですけどね。  ……ああ、バスがきますね。では、帰りましょうか。
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