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地球が滅ぶまで、あと5分。
「好きな曲を1曲聴けるじゃないか」
と、音楽家は言った。
「カップラーメンを食べることだってできるさ」
と、料理人は言った。
「静かに目を閉じて、時がくるのを待つことにしよう」
と、ベッドに横たわる人は言った。
そのあと口を揃えて、皆が言う。
「もう少し生きたかったな」
と。
地球の異変に慌てふためく森の中。この騒ぎは何事かと顔をだした彼は、事情を察し、地中から飛び立った。
「5分も生きられるのなら、いいじゃないか」
共にする相手がいてもいなくても、1人も2人も3人も、人も虫も何もかも、かわりはしない。いいじゃないか。この地球という星を見ることができたのだから。
流れに逆らうように羽ばたくスピードを上げ、彼は目に焼きつける。そよぐ森を、せせらぐ川を、眩しいほどの夜空を。
彼は幸せだった。初めて見る世界は美しく、広い。どこまで行けるだろうか。行けるところまで行こう。慣らしていない羽をもっともっとと動かす。
ただこの時間を目一杯過ごすのだ。そう呟くように、身体を光らせながら。
完
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