吸血ベイビー

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 真夏日連続日数を、何日も更新して、猛暑だった今年の夏も、やっとその勢いが衰え、爽やかに晴れたある秋の日曜日。  どこかに出かけたくなって、悦は妻のりさと一緒に、息子のアキラを連れて、フリーマーケットのゾーンまで併設されている繁華街に、ぶらりと買い物に出かけていた。  悦が時計屋で、逆輸入の腕時計に見入っている時、りさは道端の古道具屋の店先で、綺麗なグラスを見つけて、ついそれを手に取り、頭の上に掲げて眺めた。  悦が時計屋から出てくると、太陽の光が、グラスを通してりさの顔に、色とりどりの模様を映しているのが見えた。 「奥さん、それはビードロですよ、もう。へへへ」  古道具屋の主人がアンティークなグラスを、りさに自慢している。  しかしりさは首を横に振り、そんなにいいものには見えないと、言いたげだった。  もちろん本当は気に入って、りさは値切ることを考えている。  悦はそれを眺めて、強かなりさに、口元を緩めた。  そんな、幸せな光景もあった日だった。 「ねえ、アキラはどこ?」  ふと気付いて、綺麗なグラスから目を離してりさが言った。  我に返った悦が辺りを見廻した。  5歳のアキラは、さっきまで悦のズボンにつかまって、一緒にりさを見ていたはずである。
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