終電まであと5分

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終電まであと5分

終電まであと5分 木曜日のバイト終わりはギリギリの電車に先輩と二人駆け込む。 階段を駆け上がり飛び乗る電車。 ハァハァと息を切らしながら「間に合ったー」と笑うこの時間が、いつしか私の一週間分の生きがいになった。 先輩にはカノジョがいるみたい。 それも一緒に暮らしているらしい。 電車に飛び乗った後、彼は毎回そのカノジョにLINEをする。 気になって、そっと後ろから覗いたスマホ画面 『終電間に合った』 『わかった。今日は疲れたから先に寝るね〜世界で一番愛してるよ♡』 罪深い先輩は屈託のない笑顔で聞いて くる。 「お前、好きなヤツとかいねぇの?」 “いない”というのが正解だとわかっていたのに、つい「いますよ」と言ってしまった。 「えー!?誰?誰?俺の知ってるヤツ?」 (知ってるっていうかアナタだけどね) 「いえ、全然知らない人ですよ」 「まじかー!告ったりしないの?」 (告ったらつきあってくれますか?) 「カノジョがいるみたいなんですよね」 (諦めた方がいいですよね?!) 「あ!そうなんだ…でもまぁ言うだけ言ってみるのもアリかもよ?ほら!スッキリするじゃん」 (無責任な事言うなぁ) 「先輩だったら、どうします?」 「え?」 「カノジョがいるのに告られたら」 「あ、あぁ…俺?俺はこう見えて一途だからね。キッパリ断る」 () 「…カッコいいですね!」 「なんだよ。その一瞬の間は」 「他意はありません」 「でもさぁお前に告られて嫌な気分になる男なんていないと思うよ?」 そう言いながらポンポンと叩かれた頭が熱い。 思わせぶりは罪だと思う。 次の木曜日。私はワザとヒールを履いてバイトに行った。 終電まであと5分。 バイト先から駅まで走って5分。 ヒールでは走れない。 「先輩、先に行ってください。私は諦めるんで」 「何言ってんの?じゃあ俺も諦めるよ」 「そしたら二人とも帰れなくなりますよ?」 「まぁ…どっかカラオケとかで始発まで時間潰す?」 「カラオケ…ですか?」 「え?」 熱っぽい視線が絡まる。 「あ、、うん、、別の、とこでも?いいけど?」 例の派手なネオンの宿泊施設。 いわゆるラブホに入り、まずはとシャワーを浴びようとして、髪の毛をくくるゴムを部屋に忘れてきたことに気付いた私がそっと部屋のドアを開けると、ベットに腰掛けた彼はこちらに背を向けて誰かと電話していた。 「うん、だから電車に乗り遅れちゃって」 (カノジョに連絡してるんだ) よせばいいのに、しゃがみ込み聞き耳を立てた。 「うん…バイト先の控え室で泊まるから…うん…大丈夫」 今まで聞いた事ないような優しい声に胸がちくんと痛んだ。 「うん。…俺も世界で一番愛してるよ。…ママ」 私は急用を思い出したと言って、ポカンとしてる先輩を置いて慌ててラブホを出た。 始発まであと5時間。 私の恋は終わった。
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