夏の夜空に花は咲く

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 屋上に着いてから、残り5分の花火鑑賞。  打ち上がってから僅か10分の花火大会だった。  いつもならば物足りなさにがっかりしただろうが、この貴重な5分間は今年の夏いちばんの思い出となったのかもしれない。  何故なら俺にとっては―― 「なんつーか……偶然にも、これはいい誕生日プレゼントだったかもな」  ぼそっと漏らした独り言のつもりだったが。 「え、お前今日誕生日だったの?」と、2メートル向こう隣の手摺りから、武市の素っ頓狂な声が上がった。 「そうだよ。だからせめて今日はさっさと定時で切り上げようと思ってたんだよ」 「あれ、お前彼女いたっけ?」 「いないよ。悪いか」 「じゃあ、いいじゃん。部屋で一人膝を抱えて自分の誕生日を祝うよりもさ。今日は残業してラッキーだったろ? お前の家からは見えなかったろ、この花火」  否定のしようがない。  正直な所、俺は心の中で武市にこっそりと感謝していた。 「まあ、確かに。いや、だからって残業を正当化するんじゃねえ」 「それは悪かったって。お詫びにコンビニのケーキ奢ってやるから。ロウソクぶっ刺して祝ってやる」 「ぶっ刺すって……お前な。それ、祝う気ないだろ」  ――来年の誕生日には、こいつを殴れる距離に居られますように。  震える拳を握りしめながらそう願ってやまない。  それは今後も思い出に残るであろう、とある夏の日の出来事だった。  ~終~
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