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終業まであと10分。
俺はその時を今か今かと待ちわびていた。
終業まであと5分。
俺は周りには気付かれないよう、こそこそと帰り支度を始めた。
――今日は、今日こそは絶対に定時で帰るんだ……!
最近の俺はプロジェクトの納期に追われ、残業に明け暮れる毎日を送っている。
だけど今日だけは何とか定時で帰ろうと、一週間前から時間を切り詰めて頑張ってきたのだ。
――よし、定時だ!
俺がPCの電源を切ろうとした時だった。
ピロンと一通の社内メッセージが俺の目に飛び込んできた。
『坂本、ごめん! さっき渡したモーションデータだけど、今日中にレンダリング掛けておいて。明日朝一で課長のチェック入るから』
「はああああああ!?」
俺は思わず大声を張り上げていた。
「レンダリングだと!? しかもモーションデータなんて、どんだけ時間がかかると思ってるんだよ!?」
なんだか、この一瞬で気持ちが折れてしまった。もう俺のテンションはだだ下がりだ。
素早く作業に取りかかるも、案の定なかなかレンダリングは終わらない。
終わらない所か途中でフリーズまでする有り様。
周りの奴らがどんどんと帰って行く中で、俺もどんどんと自暴自棄になっていく。
「いやー急にごめんな。どう、終わりそう?」
俺を会社へと縛り付ける元凶、武市がひょいと顔を覗かせた。
「見ての通りだよ。全然終わらねー」
「お前要領悪くね? データ分割して、帰った奴らのあいてる機材も使わせて貰えよ」
――そう言うことは先に言え!
と言いたくなったが、そこまで頭の回らなかった自分が恥ずかしくて言い出せなかった。
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