夏の夜空に花は咲く

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 ***  終業まであと10分。  俺はその時を今か今かと待ちわびていた。  終業まであと5分。  俺は周りには気付かれないよう、こそこそと帰り支度を始めた。  ――今日は、今日こそは絶対に定時で帰るんだ……!  最近の俺はプロジェクトの納期に追われ、残業に明け暮れる毎日を送っている。  だけど今日だけは何とか定時で帰ろうと、一週間前から時間を切り詰めて頑張ってきたのだ。  ――よし、定時だ!  俺がPCの電源を切ろうとした時だった。  ピロンと一通の社内メッセージが俺の目に飛び込んできた。 『坂本(さかもと)、ごめん! さっき渡したモーションデータだけど、今日中にレンダリング掛けておいて。明日朝一で課長のチェック入るから』 「はああああああ!?」  俺は思わず大声を張り上げていた。 「レンダリングだと!? しかもモーションデータなんて、どんだけ時間がかかると思ってるんだよ!?」  なんだか、この一瞬で気持ちが折れてしまった。もう俺のテンションはだだ下がりだ。  素早く作業に取りかかるも、案の定なかなかレンダリングは終わらない。  終わらない所か途中でフリーズまでする有り様。  周りの奴らがどんどんと帰って行く中で、俺もどんどんと自暴自棄になっていく。 「いやー急にごめんな。どう、終わりそう?」  俺を会社へと縛り付ける元凶、武市(たけち)がひょいと顔を覗かせた。 「見ての通りだよ。全然終わらねー」 「お前要領悪くね? データ分割して、帰った奴らのあいてる機材も使わせて貰えよ」  ――そう言うことは先に言え!  と言いたくなったが、そこまで頭の回らなかった自分が恥ずかしくて言い出せなかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加