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バン! と乱暴に屋上へのドアを開ける。
目に飛び込んで来たのは、暗闇の中で見事に咲き誇る色とりどりの美しい華。
多少の邪魔はあるものの、それは俺達の目に強く凛々しく咲き誇って映った。
俺達二人は、それぞれに手摺りへともたれ掛かる。
もちろん、きっちりとソーシャルディスタンスを保ちながら。
「この音聞くと、やっと夏が来たって感じがするなー」
武市の言う通りだ。
夏の夜空を焦がす花火の音が、ピリピリと鼓膜に伝わってくる心地の良さと言ったらない。
打ち上がる時のひゅるひゅるという音。
ズドンと体の芯にまで響く火薬の弾ける音。
パリパリと火花が尾を引きながら消えゆく様は、なんとも言えない哀愁を誘う。
いつもの年ならば、ここまで打ち上げ花火に食い付くことはしない俺だが。
その日屋上から見た花火は、今までに見たどの花火よりも心に染み入るものがあった。
疫病退散を願う人々の思いを乗せ、夜空を彩る花火たち。
この花火は、あたらしい⽇本をはじめる合図なのだと言う。
この先に今まで通りの生活が戻ってくるという保証はない。
俺達もこの新しい社会の中で、新しい自分を見つけていかなければいけない時期に差し掛かっているのかもしれない。
ポン ポン
花火終了の合図が鳴る。
俺達は呆けたようになって、なかなかその場から離れることが出来なかった。
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