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「すいません…後…5分待って下さい」
深夜のショッピングモール巡回の警備職に勤務していた“Y”は、暗闇の立体駐車場に響く静かな声に、思わず身を竦ませた。一瞬、外から聞こえた声かと思ったが、ここは田舎の郊外…夜の9時を過ぎれば、通行人は皆無…車も通らない程だ。オマケに自分のいる所は立体駐車場の4階…周辺民家より高い位置にある。外の声が上がってくるには、余程の大声でなければ、無理だ。
加えて、この声は、静かな割に妙な張りがあり、今、この駐車場内で誰かが発しているという感じだ。
「あの、すいません、警備の者ですが、どちらにいらっしゃいますか?」
Yは声をかけながら、懐中電灯の光源を足元に落とす。声の様子からして、相手は恐らく女性…それに遠慮しての事だ。
「すいません…後…5、ごぶっ、げぶっ…」
Yに答える声の様子が変わる。苦しみ、声がくぐもっている感じだ。
「すいません、ライト、当てますよ!」
強めの口調で伝え、光を駐車場内の左端から横薙ぎに滑らせていく。
モール全体を管理するモニタールームに伝え、電源を入れれば、こちらの操作で場内を明るくできる。だが、この時の彼には、まだ、相手が女性だという事、
その“5分”が引っ掛かり、思い切った行動に出れない“油断”があった。
駐車場右端を照らし出した時、光の中に“それ”はいた。
何処にでもいそうな、普通の若い女性、問題なのは…
「頭と体の比率が可笑しい。肩と頭のおかっぱ髪が同じ横幅…6頭身の体に2頭身
の頭が乗っかってやがった」
“確かに可笑しい”と頷く私に、Yは
「それだけじゃない!」
と話を続ける。
「頭がゼリーみたいにブルブル震えてた。あれは元に戻ろうとしてた…多分、そんな感じだと思う。いや“何から?”って言われたら、よく、わかんねぇけど…
とにかく、異様にデカい頭を元の、人間サイズに戻す途中みたいだった」
その過程の5分を待つ気持ちなど、毛頭ない。Yは悲鳴を上げながら踵を返し、
立体駐車場から、同僚のいるモニタールームまで逃げ戻った。念のため、駐車場の監視カメラを確認したが、映っていたのは、最初から最後までYの姿だけだったと言う。
話しを終えても、震え続ける彼は最後にこう付け加えた。
「もう二度と行く事はないから、話すけどよ。俺が駐車場から外に飛び出す時、立体の建物全体に響く、間延びした声で、あの女、いや、女?…は何て言ったと思う?
“終わりました~”だってよ」
…(終)
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